奇形のクラゲ

実に実りの無い話

人喰い人の罪咎

私は神を信じていませんが、人喰いを犯した者に下る罰を目の当たりにすると、一概にその存在を否定出来ないのです。

私たち人間の祖先はナメクジウオによく似た水棲生物、ビカイアであると考えられています。

海は全ての生物の起源であり、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、そして哺乳類と進化を続けて来ました。

私は根っからの文系でありこの言い方が正しいのかは分かり兼ねますが、高次元の生物ほど同族殺しに対するある種リミッターの様な物が複雑に組み込まれているのです。

クールー病という病気をご存知でしょうか。

パプアニューギニアの風土病であり、不治の病とされている伝達性海綿状脳症の一種です。

クールーとはフォレ語で恐怖に震えるという意味で、患者の典型的な症状である身体の震えに由来します。

クールー病が進行すると重度の運動失調を起こし、介助無しでは座ることも出来なくなります。

やがて会話が不可能になり、失禁、嚥下障害、腫瘍の発生など様々な症状が現れ最終的に死に至るのです。

フォレ族には死者を弔う儀式の一環として遺体を食すという風習があり、肉や内臓だけでなく脳もその対象でした。

クールー病は、その脳を摂取するという行為によって引き起こされていたのです。

脳や脊髄に多量に存在するプリオンという蛋白性の感染因子が不治の病の正体であり、経口摂取によってのみ感染します。

プリオンは他の病原体と異なりDNAやRNA等の核酸保有しておらず、その多くは未だ謎に包まれています。

因みに狂牛病の原因もこのプリオンが原因で、牛の飼料に牛の肉骨粉を混ぜたことが引き金となっています。

これこそ同族殺しが行われないよう生物に組み込まれたリミッターであり、現代医学を持ってしても解き明かせない天罰とでも言いましょうか。

私は過去に、自らの皮膚腫瘍をSETO製のバタフライナイフで削ぎ落とし、試しにその肉片を食したことがあります。

いつの日か私にもその天罰が………。

否、犯した罪が多過ぎて、己の咎を数える間にお迎えが来てしまいそうです。