拝啓 十九の私へ
貴殿が御元気である事は私がよく存じております。
アル中の両親を忌み嫌う私が、弱冠にして同じ路を辿るとは夢にも思いませんでした。
缶チューハイにすら頑なに口を付けず、歪んだ純血を保ち続けた健気は、儚くも散る事となります。
親殺しが通過儀礼であるのなら、差し詰め身体だけが大人になった哀れなハツカネズミであります。
安酒を呷る私の喉には、刈られる事のない鼠毛が生え揃っているのでしょう。
随分と酒に弱くなりました。
鼻垂れの頃は、歳を取ったと語る二つ上のジャーキーを親知らずに挟み、強い酒を流し込んだものであります。
しかし今や、私が燻される立場に御座います。
歳下に介抱されるなど、股下にぶら下がる雄が断じて赦さぬと信じて参りましたのに。
情けないかな、壊死した肝臓の一部を引き合いに出そうとも、私は歳を取ったのです。
恥を恥とも思わなくなる程に、私は随分と歳を取ったのです。
きっと私を殺すのは貴殿でなくてはいけない。
もし十九の私が元オリンピックイヤーに現れて私と酒を交わそうものなら、貴殿が看取るは白く絶える貴殿でありましょう。
さすれば、私は酒を辞められる。
私の人生から酒を奪わば、即ち死であらんと。
空咳の虚しく掻くアコースティックも、死者への手向けと変わるのです。
これは私から私への、貴殿から貴殿への、殺人依頼であります。
未来でお待ちしています。
敬具 二十幾許かの私より