奇形のクラゲ

実に実りの無い話

キル・ユア・ハニー

秋晴と冬夜を々くして語らうは、甚だしくも美しい情景であります。

濁り湯に反照する陽射は、その貌が無邪気なように紅葉していましたでしょうか。

貴女にとって一番の幸福に成れない私は、一番の不幸でありたいと思うのです。

残された青痣だけが私を視て笑うのです。

何方にも成れない私を視て、私が、私を笑うのです。

愛は性欲の飾りに過ぎず、性欲もまた繁栄の飾りに過ぎない。

ならば私は、何を以て貴女の頸を絞めるのでしょう。

このまま貴女が死んで仕舞えば、最期の不幸は私によるものなのです。

また一緒にどこか行きたいね、という言葉を聴いて、殺さなくてよかったと安堵しました。

きっと、いつか誰しも私を忘れて生きてゆくのでしょう。

私も、溺れるなら温泉がいいな、なんて事を思うようになりました。

愛が、私の歪んだ愛が、責めて赤紫蘇の味でありますように。

 

 

アンタら暇か

2ヶ月以上更新していない当ブログが、今月の300PVを達成しました。

アンタら暇か。

出掛けたりしないのか。

巷では妙な病が逸っていらっしゃいますが、こんなブログを読んでいるようでは、肺より咲に頭が花畑になってしまう。

GO TO キャンペーンが強盗なら、経済をマワセというのは東京証券取引所の役員らを輪姦しろという事でしょうか。

ディープキスで濡れるのは、今やマスクの内側だけであります。

下らない。

下らないなりに、生活が落ち着いたらまた更新して生きます。

新幹線19号車より愛を込めて。

正常な異常者

ご無沙汰しております。

異常者です。

貴方もまた、私にとっての異常者である事をお忘れなく。

裏の裏が表であるかを論ずるつもりは御座いません。

果たして人は、正常なのでしょうか。

他人の倫理に触れ、道徳に触れ、気付けば何が正しいのかを考える事もなく、正しい人間像が貴方を支配してはいませんか。

教師というのは、異常者であります。

何が正しいのかを知らぬまま、人に正しさを説くのです。

精神科医というのは、異常者であります。

何が悲しいのかを理解せぬまま、人の悲しみを聴くのです。

ヴィーガンというのは、異常者であります。

あれは単に、異常者であります。

さて貴方は、何を知り、何を理解し、何を食し生きているのでしょうか。

倫理や道徳などというのは、ただ長く歩いたが為に靴底に付着した土のようなものです。

誰もその土を剥がし、拇指で擦ったりはしません。

先程ヴィーガンを異常者と呼びましたが、ヴィーガンにとって私たちは異常者なのです。

私はドラッグに溺れる事も、詐欺師を撲殺する事も、決して異常だとは思いません。

人様の手料理を皿に残す事の方が、余程の異常であると。

気が違ったのではありません。

貴方と生きた環境が違ったのです。

ご無沙汰しております。

私は、正常な異常者です。

とある便箋

拝啓   十九の私へ

貴殿が御元気である事は私がよく存じております。

アル中の両親を忌み嫌う私が、弱冠にして同じ路を辿るとは夢にも思いませんでした。

缶チューハイにすら頑なに口を付けず、歪んだ純血を保ち続けた健気は、儚くも散る事となります。

親殺しが通過儀礼であるのなら、差し詰め身体だけが大人になった哀れなハツカネズミであります。

安酒を呷る私の喉には、刈られる事のない鼠毛が生え揃っているのでしょう。

随分と酒に弱くなりました。

鼻垂れの頃は、歳を取ったと語る二つ上のジャーキーを親知らずに挟み、強い酒を流し込んだものであります。

しかし今や、私が燻される立場に御座います。

歳下に介抱されるなど、股下にぶら下がる雄が断じて赦さぬと信じて参りましたのに。

情けないかな、壊死した肝臓の一部を引き合いに出そうとも、私は歳を取ったのです。

恥を恥とも思わなくなる程に、私は随分と歳を取ったのです。

きっと私を殺すのは貴殿でなくてはいけない。

もし十九の私が元オリンピックイヤーに現れて私と酒を交わそうものなら、貴殿が看取るは白く絶える貴殿でありましょう。

さすれば、私は酒を辞められる。

私の人生から酒を奪わば、即ち死であらんと。

空咳の虚しく掻くアコースティックも、死者への手向けと変わるのです。

これは私から私への、貴殿から貴殿への、殺人依頼であります。

未来でお待ちしています。

敬具   二十幾許かの私より

悪党の名

悪党の人皮を羽織る輩が随分と多くなりました。

トルエン・フリーの溶剤で低空飛行する娼婦は未だ可愛気がありましたが、拇指で擦った事もないドラッグのエッセイ漫画を描く恥知ずが蔓延るを視るに、この街も平和になったものです。
自己顕示欲ばかり勁く、余りに経験の乏しいフィクション作家に一つだけアドバイスを差上げます。
稚拙な原稿を世に垂れる前に、私のような人間を校閲に雇うと良い。
さて、私の知る悪党の噺をしましょう。
生まれてこの方、彼には罪悪感というものが欠如していました。
何の才能もなかった彼にとって、唯一つの取柄であります。
頃、多額の借金を返済すべく数切れない程の悪事に手を染めていた彼は、ゲイビデオの撮影をする傍ら麻薬カルテルの貌を持つ犯罪シンジケートに眼を付けました。
偽名のエントリーシートを郵送し、交渉の末、撮影は定点カメラを用い絡みは細身の男性を一名。
男優のシャワータイムに白粉のパケを攫うなど、朝食にベーコンエッグを焼くより容易い事でした。
彼は存在しないポルノスターとして歓楽街のビルディングを訪れました。

しかし、そこに待ち受けていたのは大柄な男でありました。
彼は初めから嵌められていたのであります。
素知らぬ振りをして惻々とシャワーを浴びると、給湯器の調子が悪いと呼び付け、丸腰で現れた木偶の頭蓋を便器でカチ割りそのまま下水へと沈めました。
洗面台に散った血液が蛍光灯に照らされ、キラキラと輝いていたのを今でも鮮明に憶えています。
ローテーブルに轉がる長財布をピーコートの内ポケットへと詰め、事後によく似た倦怠感を横目に、大路のタクシーを拾いました。
住み慣れたアパートへ帰ると、彼は郵便受けに溜まった広告紙に安堵しました。
蝶番の錆びた戸を引き、同棲していた女に「財布を拾ったから油淋鶏でも食いに行こう」と言うと、彼女は膝を抱えたままニコリと笑うのでした。
最寄駅の二軒隣にある中華屋から戻り、その陽二度目のシャワーを浴びると、水垢塗れのアクリル鏡に反射していたのは、紛れもなく悪党でありました。
そう、確か彼の名は───────。

仔猫の骸が笑わない

心とは何でしょうかと問われたら、貴方は何と応えますか。

脳を過るは、差し詰め恋人の顔でしょうか。

アスファルトに轉がる仔猫の骸から舵を切る反射に在ると、私は思います。

仔猫は轢かれたが既に仔猫に非ず。

散らした肉片を掻き集めても元には戻りません。

それなのに人は何故か、轢かれた仔猫を避けて通るのです。

笑う骸を、泣く骸を、見た事がありましょうか。

貴方の宗教観を否定するつもりは御座いませんが、シナプスの集合体でしかない蛋白の義体が天に昇るなどチャンチャラ可笑しいのです。

仔猫も人も、死なばそれ迄なのであります。

不謹慎などという言の葉は、余程信心深い人間が考え付いたに違いない。

貴方の拇指を動かすのは、心などという曖昧なものでなく、紛れもない脳であります。

平らになった仔猫に何遍タイヤを乗り上げようと、笑いも泣きもしないのです。

ご自慢の愛車が返血で汚れるから、そこの仔猫を避けて通ったのですか。

違いますよね。

さて、もう一度問います。

心とは何でしょうか。

火葬

幼子の頃、御厄介になった方が亡くなりました。

とても強い人でした。

強さ故に脆くもある人でした。

とても、とても数奇な人生でした。

私の母親代わりであった彼女は高貴の生まれで、典型的なお嬢様でありました。

当布だらけのネルシャツを着ていた私とは似ても似つかぬ暮らしぶりで、哀しきかな仔供ながらにそれを理解していました。

市街に聳える七階建てのビルディングは、彼女とその家族の象徴とも言い得るでしょう。

陽射が落としたステンドグラスの彩りは、私の背に伸びる陰とのコントラストを一層顕にするのです。

それから私は初等教育に進み、彼女と会う事もなくなりました。

金満家の事業が傾いたと耳にしたのは、数年後の事でした。

しかし、人はそう易く水準を下げられぬ生き物であります。

私たちが廃水を飲めないのと々じように、彼女も又、特売品の牛肉を咀嚼する事が出来ないのです。

彼女らの象徴は人の手に渡り、犯罪シンジケートに喰物にされ、病に伏しました。

治療費すら払えず、最期は砂のように渇いていったそうです。

唯一の親類である実娘にも看取られる事なく、その心臓は打つことを辞めました。

彼女の遺体は火葬場で直葬され、骴を拾われる事もありませんでした。

さようなら愛しい人よ。

誰も貴方の死を笑わない。

とても、とても、とても数奇な人生でした。