奇形のクラゲ

実に実りの無い話

お料理ノート・後編

こんなどうでもいい話を前後編に分けるなって?

一度やってみたかったんですよ。

1Kのアパートに移り住んでから半年が経ち、気が付くと私の家はたまり場になっていました。

毎日のように誰かが訪ね、手土産の酒をたらふく飲んでは酔い潰れる。

そんな日々を送っていたある日、キッチンの換気扇の下で煙草を吸っていた友人が私のお料理ノートを見つけます。

表紙をめくるとそこに書かれているのは目玉焼きの作り方です。

サラダ油を引き、フライパンを火にかける。

そして、卵を割る。

入れる。

目玉焼きができる。

まあ面白いわけですよ。

世界一、稚拙なお料理ノートでしょう。

こんな内容のお料理ノートを、私のような人間が大真面目に書いてるのです。

まあ面白いわけですよ。

忽ち噂が広まり、お料理ノートを読むために家を訪れる方々が増えました。

私は人に弄られるような人間ではなかったので、どこか新鮮で嬉しかったのでしょうね。

そのうち酒だけでなく食材を両手に訪れ、私は料理を作るのが楽しくて仕方がありませんでした。

ソファーで失神した友をよそに明日の朝食を作りながら、究極の趣味とは何かと考えたことがあります。

一人でできて、複数人でもできて、披露する場がある。

尚且つ評価され、熟達するそんなことを浮かぶうちにオーブンが鳴りました。

6枚切りのトーストにスクランブルエッグ、千切りのキャベツに焼いただけのウィンナーソーセージ。

お湯を注いだだけのフリーズドライ・コーンスープ。

私が作ったと呼べるのか。

定義なんてどうでもよくて、誰かのために朝食を作るというのは楽しいものです。

こんなオチのない話をするなって?

一度やってみたかったんですよ。