奇形のクラゲ

実に実りの無い話

麻ましき贅沢

マンチーという言葉をご存知でしょうか。

大麻を摂取した際の食欲増進作用の事です。

日本の誤った薬物教育のせいで、違法ドラッグに手を染めると見る見る痩せてしまうなどという認識が広がっていますが、大麻は寧ろその逆。

摂取すると忽ち食欲が刺激され、目の前に置かれた味気ない食事さえ大層魅力的に映るのです。

過去の記事で大麻が五感を研ぎ澄まし、音楽が豊かに聴こえるという話に触れましたが、味覚もその例外では無いのです。

大学時代、私はこのマンチーが原因で腹回りの贅肉を8kg程蓄えてしまいました。

贅沢な肉と書いて贅肉。

大した稼ぎの無かった私にとっては、正にその通りでありました。

臆病者の私は、大麻を吸引する前に自宅の目と鼻の先にあるコンビニで、パック詰めされた徳用の寿司と森永の板チョコを暫し買い込んでおりました。

稀に食糧が足りなくなり、眼を紅色に染めながらそのコンビニへと脚を運ぶ事もありましたが、今思うと随分恐ろしい事をしていたものです。

マンチーの状態で口へと輸送する握りの中でも、私は取り分けサーモンが好きでした。

半日以上前にパッキングされ、食品添加物により延命措置を取られている薄ら乾いた生魚が、高級江戸前寿司店のそれに勝るとも劣らない味へと変貌するのです。

身は滑らかに舌を這い、芳醇な香りが鼻へと抜け、最後は喉を優しく愛撫し私の中へと堕ちて行きます。

チョコレートは、体温で溶けると扇状に口内を伝い、歯茎と一体と成るかの様で。

気が付くと私の両脚からは太い根が生え、そのままソファの中に沈んで行きます。

足裏に残る冷たいフローリングの感触のみが、私と現実を辛うじて繋ぎ止めるのです。

私にとって、どんなに良い女と寝るより幸せで、この上なく心地の良い瞬間であります。

まだ初任給が幾許か残っておりますので、来週末は回らぬ寿司屋の中トロなどを片手に、一服しようかと思います。