奇形のクラゲ

実に実りの無い話

溺れる遺骨

現在は大分良くなったのですが、中学生までの私は誰がどう見ても強迫性障害の子供でした。

信じ難い話かとは思いますが、自分がしたくも無いことをやらなくてはいけないという強迫観念に突如足首を掴まれ、身動きが取れなくなるのです。

あれは小学生の頃、祖父母と焼肉に行った時のことです。

ステンレス製の箸を喉奥に突き立てなければならないと、どこからか声がしました。

逆らおうとすると、両肩から指の先に掛けて小さな虫が無数に走る感覚に襲われ、それを受け入れる他ありません。

結果箸で喉奥を掻き回した少年は盛大に嘔吐し、焼肉屋の床を白濁色に、祖父母を顔面をペールブルーに染め上げました。

自分でも意味が分からず、悔しくて悔しくて堪りませんでした。

6歳より前の記憶はありませんが、幼稚園に年長の歳まで通わせてもらえず、群馬県の四畳半アパートに軟禁されていたことを考えるに、外に出せるような子供ではなかったのだと思います。

私は所謂金槌というやつで、大人になった今でも25mプールすらまともに泳ぎ切ることが出来ません。

単に泳ぐのが下手というのもあるのですが、水中にいると無性に呼吸をしたくなってしまうのです。

此処は水の中である。

息を吸えば忽ち底に沈んでしまう。

吸うな、吸うな………。

どれ程我慢をした事でしょう。

気が付くと肺いっぱいに水を飲み込み、私はいつも溺れているのであります。

強迫性障害と一生付き合わなければならない憂鬱が蔓のように心臓に絡み付き、時折鼓動を忘れてしまいそうになります。

親に打ち明けたところ、下らない嘘を付いてまで人の気を引くような卑しい子は他所の子だ、そのまま死んでしまえと言われました。

嗚呼、そうだ。

私が死んだら水葬してもらおう。

きっと海の底で呼吸をしているでしょうから。