奇形のクラゲ

実に実りの無い話

運び屋の憂鬱

先日国道119号の高架下にて、非常に人懐っこい野良猫に出会いました。

暫く顎を撫でていると、運び屋の憂鬱について知りたくないか、と確かに人語で話し掛けてきたのです。

私はその場に屈み必死でメモを取りました。

以下はその内容であり、一人称である私とはその猫を指します。

ご理解の程宜しくお願い致します。

脱法ドラッグが規制されて以降、覚醒剤大麻等の所謂違法薬物需要が高まっています。

警視庁始め各都道府県警の皆様方は一層その検挙に血道を上げており、運び屋にも質が求められる時代になりました。

それに伴い、様々な“運搬グッズ”が日夜開発されているのです。

隠しポケットが付いているボクサーパンツやオイルを充填する部分が空洞になっているフリント式ライター、近年ではモバイルバッテリーに模したシークレットケースなどを見掛けます。

しかし、通販などで売られているグッズは既に警察に検分されている可能性が高く、より安全に運ぶ為にはそれらを自作することを余儀なくされます。

場末のキャバレーで働くカキタレに「DIYみたいで楽しそう」と言われたことがありますが、此方は捕まるか否かの瀬戸際、胃酸が沸騰する思いであります。

私がネタを隠すのは決まってパンツの中です。

踝丈の履き古した靴下をパンツの内側に縫い付け、パケが丁度睾丸の下に来るように調整します。

世界広しと言えども、職務質問で人様の金玉を弄るような警察官はいません。

同業の女性にもブラジャーの中にネタを仕込んでいる方がいて、そのサイズでは一度に多く運べないから不利ではないかと尋ねたところ、平手打ちを喰らいました。

私は幼気な野良猫ですから、これは立派な動物虐待であります。

話を元に戻しまして、私が今まで目にした個性的且つ実用的な運搬方法をいくつかご紹介したいと思います。

一つは某チェーン店で牛丼を購入し、米を捨ててアタマの下にパケを敷き詰める方法です。

一度に多くのネタを運べるだけでなく、非常に発見され難いという利点があります。

職務質問というのは本来目的なく街を彷徨く無頼の輩に行われるものであり、いくら国家の忠犬と言えど牛丼の入った袋をぶら下げている一般市民をいきなり疑って掛かるようなことはまず有り得ないのです。

仮に職務質問に遭ったとしても、牛丼をひっくり返して中身を見せろなどとは言われません。

もう一つはアダルトグッズに忍ばせるという方法です。

国家の忠犬呼ばわりをした直後で恐縮なのですが、警察官も人間です。

職務質問でローターやらバイブやらが出て来たら気まずいんですよ。

職務質問によりその人の尊厳を傷付けるような事があれば訴訟問題にも発展し兼ねない為、彼らも無闇に触ったり分解して中身を見たりは出来ません。

よく考えたものです。

他にも様々な運搬方法を見て来ましたが、同業者に真似事をされると私自身が溢れてしまうので、この辺で口を紡ぎたいと思います。

運び屋はいつ前足に掛けられるやも知れぬワッパと気の短い雇用主に怯えながら、今日も路地裏を憂鬱と往くのです………。

………暫しの沈黙の後メモ用紙から膝元に目線を移すと、そこには口をホチキス止めされた野良猫の死骸が転がっていました。