奇形のクラゲ

実に実りの無い話

そして誰も吸わなくなった

数年前に話題になった脱法ハーブの行方をご存知でしょうか。

新宿に数店舗あった販売店は皆姿を消し、当時連日連夜報道されていた脱法ハーブ関連のニュースも今や一切目にしなくなりました。

単に流行らなくなったのか、法律が整備され販売することが困難になったのか。

今回はその真相を私の知っている限りお話したいと思います。

そもそも脱法ハーブとは何者なのか、ということから説明します。

日本では大麻取締法により大麻の所持及び使用が禁止されており、国内で妄りに吸引すれば刑事罰に問われます。

そこで考え出されたのが脱法ハーブです。

大麻の酩酊作用を引き起こす成分であるカンナビノイド、その化学構造を弄った合成カンナビノイドが'00年代初頭のヨーロッパで発明されました。

脱法ハーブをナチュラルドラッグ、もっと簡単に言ってしまえば酩酊作用を持つ植物を乾燥させた物であると勘違いしている方をよく見掛けますが、合成カンナビノイドを雑草に霧吹き等で添加したものであり、完全なるケミカルドラッグに分類されます。

日本で押収された脱法ドラッグから合成カンナビノイドが検出されたのは'09年です。

国内では'10年以降急激に流通量が増加した印象を受けます。

'00年代中後期に流通したものは第一世代〜第三世代と呼ばれ、大麻LSD等のナチュラルドラッグによく似た化学構造を持っていました。

それ故に安全性が高く、大麻の代用品としてインターネットを通じ広く売買されていました。

問題はここからです。

当然と言えば当然ですが、'10年代、政府がその規制に重い腰を上げます。

合成カンナビノイドは禁止薬物に指定され、文字通り煙の如く巷から姿を消すはずだったのですが………。

脱法ハーブの販売業者は合成カンナビノイドの化学構造をさらに弄り回し、法律の網を掻い潜る新たな合成カンナビノイドを作り上げたのです。

政府も直ぐ様法改正を行い対応に当たりましたが、以降は完全なるイタチごっこで、寧ろより複雑な化学構造を持つ合成カンナビノイドの出産を助長する形となってしまいました。

これがどれ程恐ろしい事かお分かりでしょうか。

第五・第六世代になり、化学構造に数多の手が加わったカンナビノイドは、最早元の物質とは似ても似つかない、悍ましい化け物へと変わり果ててしまったのです。

この頃から脱法ハーブを吸引して事件や事故を起こす常用者が急激に増加し、一般人にも広く認識されるようになった事で、社会的にも問題視されるようになりました。

私も第五世代以降の脱法パウダーを吸引した経験がありますが、スニッフの直後、この世の物とは思えない不安と苦痛が押し寄せて来ました。

突如ブラックアウトし、翌日目を覚ますと服を着たまま風呂場で失禁していたのです。

これがカンナビノイドな訳が無い。

私は怖くなって残りの粉末を全て洋式トイレに流しました。

恐らく他の常用者たちも、脱法ハーブによって自分が自分で無くなる感覚に耐え切れなくなり、次々と使用を辞めていったのだと思われます。

現在も脱法ハーブが売買されているという話を耳にしましたが、アレを未だに空飛ぶ魔法の箒と勘違いしている輩がいると思うと悪寒が走ります。

脱法ハーブが市場から消えた理由、それは、危険な代物へと姿を変えた枯れ草に対する人々の自重による物だったのです。