奇形のクラゲ

実に実りの無い話

熱に視る夢

幼い頃から丈夫にできていて、滅多に風邪を引かない私ですが、偶の休日だというのに熱を出してしまいました。

思えば今週は寝不足続きで、疲労が溜まっていたのかもしれません。

一日中寝込んでいると、よく昔の事を思い出すのです。

薄暗い坂の途中にある木造長屋の洋食屋、これが現の記憶なのか夢との混同なのかは分かり兼ねますが、私の中にその洋食屋は“確かに”存在するのです。

天井から下がるオイルランタンの淡い光に照らされて、大きな海老フライと透き通るような碧色をしたクリームソーダの影が、私の方へと落ちるのです。

正面には優しかった祖母の顔が、その隣には祖父が座っていました。

そこに行く時の私は決まってご機嫌でした。

きっと料理も高かったのだろうと、子供ながらに遠慮をし、海老フライが一本だけ乗ったメニューを選んでいたのを微かに覚えています。

時は流れ、私もいつの間にか大人になってしまいました。

きっとその洋食屋にも二度と立ち寄る事は無いのだろうと、仄かに熱を帯びた私の脳が言うのです。

子供の私は、自分が大人になる事など想像もしていませんでした。

私も随分と汚れてしまいました。

歳を取るというのは、子供の頃の自分を忘れるという事でもあります。

人は無垢のままでは生きて行けません。

心の綺麗な人間が好餌にされるの世の中で、それでも私たちは、歩幅が違えど前へと歩き続けるのです。

純真だった自分を置き去りにして。

時折、本当に私が私なのか不安になる事があります。

プラスチック製の虫籠で飼っていた蝶の死に心を痛めていたあの子供は、人の死に表情一つ変えない大人へと成長しました。

あの頃の私は今もどこかで生きていて、大人になった私とは別の人間なのかもしれません。

今も変わらず、背の高いグラスに浮かぶバニラアイスをスプーンで啄き、意味もなく微笑んでいるのでしょうか。

否、きっとそうなのです。

そうでない筈がないのです。

 

麻ましき贅沢

マンチーという言葉をご存知でしょうか。

大麻を摂取した際の食欲増進作用の事です。

日本の誤った薬物教育のせいで、違法ドラッグに手を染めると見る見る痩せてしまうなどという認識が広がっていますが、大麻は寧ろその逆。

摂取すると忽ち食欲が刺激され、目の前に置かれた味気ない食事さえ大層魅力的に映るのです。

過去の記事で大麻が五感を研ぎ澄まし、音楽が豊かに聴こえるという話に触れましたが、味覚もその例外では無いのです。

大学時代、私はこのマンチーが原因で腹回りの贅肉を8kg程蓄えてしまいました。

贅沢な肉と書いて贅肉。

大した稼ぎの無かった私にとっては、正にその通りでありました。

臆病者の私は、大麻を吸引する前に自宅の目と鼻の先にあるコンビニで、パック詰めされた徳用の寿司と森永の板チョコを暫し買い込んでおりました。

稀に食糧が足りなくなり、眼を紅色に染めながらそのコンビニへと脚を運ぶ事もありましたが、今思うと随分恐ろしい事をしていたものです。

マンチーの状態で口へと輸送する握りの中でも、私は取り分けサーモンが好きでした。

半日以上前にパッキングされ、食品添加物により延命措置を取られている薄ら乾いた生魚が、高級江戸前寿司店のそれに勝るとも劣らない味へと変貌するのです。

身は滑らかに舌を這い、芳醇な香りが鼻へと抜け、最後は喉を優しく愛撫し私の中へと堕ちて行きます。

チョコレートは、体温で溶けると扇状に口内を伝い、歯茎と一体と成るかの様で。

気が付くと私の両脚からは太い根が生え、そのままソファの中に沈んで行きます。

足裏に残る冷たいフローリングの感触のみが、私と現実を辛うじて繋ぎ止めるのです。

私にとって、どんなに良い女と寝るより幸せで、この上なく心地の良い瞬間であります。

まだ初任給が幾許か残っておりますので、来週末は回らぬ寿司屋の中トロなどを片手に、一服しようかと思います。

空飛ぶ自転車

セブ島に向かう飛行機から窓の外を覗くと、自転車を漕ぎ空を往く人型の物体を発見しました。

そう、ピエール瀧です。

先日ミュージシャンであり俳優としても活躍するピエール瀧こと瀧正則氏が、コカインを吸引したとして警視庁に逮捕されました。

有名人が薬物絡みで話題になると必ずと言って良い程意見を求められるので、今回は私の方から先にブログに書いてしまおうと思います。

正直な話、5時間半に及ぶフライトで暇を潰す方法がこれしか無いのです。

当事件の捜査の切っ掛けは売人及びその周辺からの情報提供と聞いており、顔が売れるというのも考え物です。

警視庁は家宅捜索に踏み切るも瀧氏の自宅からブツが出る事は無く、その後の任意同行による尿検査にて陽性反応を示した為逮捕に至ったそうです。

コカインは通常、使用から数時間程で尿から検出不可能となる為、瀧氏が日常的に、それもかなりの頻度で使用していた事が推測出来ます。

コカインは南米に生息する植物コカノキから精製される粉末状の成分で、鼻から吸引するのが一般的です。

瀧氏の部屋にも、コカイン吸引に使用されたと思われる丸められた韓国紙幣が落ちていました。

他のドラッグに比べ依存性が強く、ヘロインやメタンフェタミンに次ぐ代物と言っても過言では無いでしょう。

売人の間では“チャーリー”と呼ばれ、コカインの頭文字であるCから来ているという説と、コカイン使用で知られる米国の俳優チャーリー・シーンから来ているという説がありますが、真相は如何に。

日本の売人からは取り分け“チャリ”と呼ばれ、“自転車”と表記される事が屡々あります。

正しく空飛ぶ自転車と言った所でありましょうか。

しかし実情は映画E. T. の其れとは掛け離れた物であり、コカインを絶とうとすれば忽ち強烈なフラッシュバックに苦しむ事となります。

コカインはアッパー系のドラッグで、作用時間が短い事から自然と使用量も増加して行きます。

私はコカインの吸引経験が無い為又聞きの形となりますが、吸引直後から多幸感が押し寄せて来て、何をするのも心地が良いといった感覚に陥るそうです。

息をすれば爽快な風が鼻を抜け、関節に潤滑油を差したかの様に手脚が滑らかに動き、シャワーを浴びると水滴一粒一粒が身体を撫でるように伝います。

一方で食欲は減退し、使用者の多くが痩せて行きます。

食事が何よりの楽しみである私からすれば何の魅力も感じない単なる粉薬ですが、瀧氏にとっては桃源郷へと前進する自転車の両輪だったのでしょう。

彼が何を思いコカインに手を出したのかは分かり兼ねますが、ドラッグは人の心と身体を破壊し、萎縮した人間の脳は二度と元に戻りません。

西の魔女の霊薬で無ければ、東の科学者の妙薬でも無いのです。

危険な薬物が簡単に手に入る世の中だからこそ、私たちには何が大切なのかを選択をする義務があります。

己の舵は己で切るしか無いのです。

穏やかな波に揺られ、相応の幸せを噛み締め今日を生きようではありませんか。

これからは自転車よりも船の時代だと、飛行機の中で思うのでした。

避妊失敗ベイビー

親に望まれて生を亨け、相応の数の友人に恵まれ、それなのに誰にも愛されていないと嘆く人間が私は大嫌いです。

高校に進学して数ヶ月経ったある日、些細な事で両親と揉め、大きな喧嘩へと発展しました。

その時、私が避妊失敗により生まれて来たことを告げられ、堕ろしておけば良かったとまで言われました。

家庭が荒れていた時期で私の精神が不安定だった事もあり、相当堪える物がありました。

殺すぞ、と何度も罵声を浴びせられる事など私にとって屁でも有りませんでした。

でもね、人間生まれて来なければ良かっただなんて、そんな事を産んだ親に言われると何故自分が存在してるのか分からなくなるんですよ。

私の中で何かが壊れてしまいました。

それから余り家に帰らなくなり、ネカフェやラブホテルから高校に通う日が続きました。

アル中の母親が嫌いで、現実逃避の為に飲酒をするのは控えていましたが、代わりに向精神薬に手を出し、実を言うと高校前半の記憶が抜け落ちているのです。

私を薬で餌付けしていた女は、現在六本木でキャバクラ嬢をしているそうです。

随分と良い御身分になりました。

人は簡単に壊れてしまいます。

そして、壊れたら二度と元には戻りません。

壊れてしまった人間は、誰かを壊すようになるのです。

現在子を持つ方、またこれから子をを授かる方、どうか最大限の愛を注いであげてください。

親の愛を知らずに育った人間は、いつか加害者になってしまいます。

不幸な子供がこれ以上増えませんように。

さて、出掛けますか。

哲学的ゾンビ調査報告書

哲学的ゾンビという言葉をご存知でしょうか。

物理的化学的電気的反応は普通の人間と何一つ違いを有しませんが、意識を全く持たない人間を指す心理哲学用語です。

哲学的ゾンビは外面的には人間と何ら変わらず、喜び、怒り、悲しみと云った反応を示しますが、その根本にあるクオリアが欠如していると定義付けられています。

罪悪感の希薄な人や、冷たい人等の人間の性格を表す言葉ではないという事を念頭に置いてください。

哲学的ゾンビとは本来、心理哲学の分野において議題を扱うに当たって純粋かつ理論的なアイデアとして用いられる道具であり、実在しないというのが哲学者の中での定説です。

しかし、22年間という歳月の中で出会った内に、それが垣間見得る人物と多く交流をした自覚が有ります。

無論私は哲学者で無ければ論理学者でも無い為、現象判断のパラドックスについては当記事では触れない事とします。

人の単位は脳であり、意識であります。

他者と関わりを持つというのは、二つ以上の意識が交わり、自分一人では産出し得ない感情を蓄えるという事です。

数多の人々と意識を交えれば、それだけ豊かな人間に育つはずなのですが…。

友人の少ない私から見ても、それなりに居場所がありそれなりに人と接する機会があるにも関わらず、何処か感情が、と言うよりか根本的に意識が抜け落ちた人間が存在するのです。

此方としては仲良くしているつもりでも、何処か掴めないと言いますか、本当は何も感じていないのではないかと疑いたくなる人間に山程出会いました。

アダルトチルドレンを自称するつもりは毛頭御座いませんが、子供の頃から何かと思慮の深い人間だったと自負しております。

血潮より遥かに濃厚な体内を巡るクオリアが複雑に絡み合い、感情という物に常に左右され生きて来ました。

それ故に、意識の欠けた人間を見ると時折不安になるのです。

一体何を考え私と関わっているのか、将又何も考えていないのか。

私の考え過ぎでしょうか。

否、考え過ぎるくらいが人間らしいと私は思っています。

哲学的ゾンビは意識が存在しない為、それに伴い自覚症状も無いそうです。

この様な記事を書いておきながら、若しかしたら私の中にもクオリアが存在せず、人間の振りをしてブログを更新しているのかも知れません。

この記事を読んでいる貴方の意識は、果たして貴方の元に在りますでしょうか。

執拗な様ですが、哲学的ゾンビには自覚症状が無いのです。

是れにて哲学的ゾンビの調査報告を以上とします。

失読ルーズ

最近ブログを書いていて文章力があるとの有難いお言葉を頂くのですが、私は活字が読めないので何ともお答えし辛い所存です。

幼い頃より読書が大の苦手で、読書感想文を書かされる夏休みが憂鬱でした。

私は人生でたったの2冊しか、本を読了したことがありません。

1冊はエルマーのぼうけん、もう1冊は高橋由伸華麗なるスラッガーです。

どちらも小学一二年生の課題図書であり、これ以上の文章量になると、途中で文字が歪み脳に内容が入って来なくなってしまいます。

センター試験の現代文辺りが丁度、楽しく物語を読める長さなのです。

両親からも頭の病気だと言われ、それなら仕方が無いと今日まで開き直り、本を全く読んでいない訳であります。

俳優トム・クルーズ失読症を患っており、台本を読むのに大変苦労しているそうです。

も、という言い方をしてしまいましたが、そもそも私は失読症なのでしょうか。

文章を読むということに只管ルーズなだけではないでしょうか。

ブログを更新する程私の中で大きな悩みではありませんし。

この記事だって、失読ルーズって駄洒落を言いたいだけなんだから。

解散、解散。

そして誰も吸わなくなった

数年前に話題になった脱法ハーブの行方をご存知でしょうか。

新宿に数店舗あった販売店は皆姿を消し、当時連日連夜報道されていた脱法ハーブ関連のニュースも今や一切目にしなくなりました。

単に流行らなくなったのか、法律が整備され販売することが困難になったのか。

今回はその真相を私の知っている限りお話したいと思います。

そもそも脱法ハーブとは何者なのか、ということから説明します。

日本では大麻取締法により大麻の所持及び使用が禁止されており、国内で妄りに吸引すれば刑事罰に問われます。

そこで考え出されたのが脱法ハーブです。

大麻の酩酊作用を引き起こす成分であるカンナビノイド、その化学構造を弄った合成カンナビノイドが'00年代初頭のヨーロッパで発明されました。

脱法ハーブをナチュラルドラッグ、もっと簡単に言ってしまえば酩酊作用を持つ植物を乾燥させた物であると勘違いしている方をよく見掛けますが、合成カンナビノイドを雑草に霧吹き等で添加したものであり、完全なるケミカルドラッグに分類されます。

日本で押収された脱法ドラッグから合成カンナビノイドが検出されたのは'09年です。

国内では'10年以降急激に流通量が増加した印象を受けます。

'00年代中後期に流通したものは第一世代〜第三世代と呼ばれ、大麻LSD等のナチュラルドラッグによく似た化学構造を持っていました。

それ故に安全性が高く、大麻の代用品としてインターネットを通じ広く売買されていました。

問題はここからです。

当然と言えば当然ですが、'10年代、政府がその規制に重い腰を上げます。

合成カンナビノイドは禁止薬物に指定され、文字通り煙の如く巷から姿を消すはずだったのですが………。

脱法ハーブの販売業者は合成カンナビノイドの化学構造をさらに弄り回し、法律の網を掻い潜る新たな合成カンナビノイドを作り上げたのです。

政府も直ぐ様法改正を行い対応に当たりましたが、以降は完全なるイタチごっこで、寧ろより複雑な化学構造を持つ合成カンナビノイドの出産を助長する形となってしまいました。

これがどれ程恐ろしい事かお分かりでしょうか。

第五・第六世代になり、化学構造に数多の手が加わったカンナビノイドは、最早元の物質とは似ても似つかない、悍ましい化け物へと変わり果ててしまったのです。

この頃から脱法ハーブを吸引して事件や事故を起こす常用者が急激に増加し、一般人にも広く認識されるようになった事で、社会的にも問題視されるようになりました。

私も第五世代以降の脱法パウダーを吸引した経験がありますが、スニッフの直後、この世の物とは思えない不安と苦痛が押し寄せて来ました。

突如ブラックアウトし、翌日目を覚ますと服を着たまま風呂場で失禁していたのです。

これがカンナビノイドな訳が無い。

私は怖くなって残りの粉末を全て洋式トイレに流しました。

恐らく他の常用者たちも、脱法ハーブによって自分が自分で無くなる感覚に耐え切れなくなり、次々と使用を辞めていったのだと思われます。

現在も脱法ハーブが売買されているという話を耳にしましたが、アレを未だに空飛ぶ魔法の箒と勘違いしている輩がいると思うと悪寒が走ります。

脱法ハーブが市場から消えた理由、それは、危険な代物へと姿を変えた枯れ草に対する人々の自重による物だったのです。