奇形のクラゲ

実に実りの無い話

火葬

幼子の頃、御厄介になった方が亡くなりました。

とても強い人でした。

強さ故に脆くもある人でした。

とても、とても数奇な人生でした。

私の母親代わりであった彼女は高貴の生まれで、典型的なお嬢様でありました。

あて布だらけのネルシャツを着ていた私とは似ても似つかぬ暮らしぶりで、哀しきかな仔供ながらにそれを理解していました。

市街に聳える七階建てのビルディングは、彼女とその家族の象徴とも言い得るでしょう。

陽射が落としたステンドグラスの彩りは、私の背に伸びる陰とのコントラストを一層顕にするのです。

それから私は初等教育に進み、彼女と会う事もなくなりました。

金満家の事業が傾いたと耳にしたのは、数年後の事でした。

しかし、人はそう易く水準を下げられぬ生き物であります。

私たちが廃水を飲めないのと々じように、彼女もまた、特売品の牛肉を咀嚼する事が出来ないのです。

彼女らの象徴は人の手に渡り、犯罪シンジケートに喰物にされ、病に伏しました。

治療費すら払えず、最期は砂のように渇いていったそうです。

唯一の親類である実娘にも看取られる事なく、その心臓は打つことを辞めました。

彼女の遺体は火葬場で直葬され、骴を拾われる事もありませんでした。

さようなら愛しい人よ。

誰も貴方の死を笑わない。

とても、とても、とても数奇な人生でした。